民放ラジオ13社のネットサイマル放送解禁に寄せて。

古いエントリにDeForestさんからコメントをいただきましたが、このニュース(2ページ以降が一般でも見られたのは、掲載日である2月12日当日のみ)が流れた当日は夜眠く、エントリするタイミングを逸してしまいました。と、いうわけで、バレンタインデーの暇な昼間に改めて。


1995年のRealAudio V1リリースから16年目にして、日本でも在京・在阪の大手民放ラジオ13社によるインターネット経由のサイマル(同時)ストリーミング放送がついに開始へ。Radiko (Under Construction) なるサイトを共同で立ち上げ、3月中旬より試験サービス、9月より本サービスとなる模様です。
コミュニティFM局がRealAudioやWindows Mediaサイマル放送を行っている例や、短波による全国向け放送のラジオNIKKEIが競馬中継以外のほぼ全番組をサイマル配信している例、J-WAVE「Brandnew-J」のようにネットオリジナル編成を基本としながら部分的にサイマル番組を流しているケースなどはありますが、中波(いわゆるAM)局や県域以上のFMラジオ局による完全サイマル放送は国内初です。

日経BPの記事の方では、長い間封印されてきたサイマル放送解禁の背景として、都市化による受信環境の悪化、CM出稿減少による各ラジオ局の経営悪化などを挙げています。
受信についていえば、実際、特にAM(中波)ラジオはIT機器と相性が悪いと思います。内蔵のフェライトバーアンテナでAMを受信している場合、電波の弱いサービスエリアの端っこでは、ラジオをPCの傍に置くとPCからのノイズを拾って聴くに堪えないだろうと思います。国産の某ストリーミングソフトでも多数のAMラジオが中継されていますが、実際、大抵は雑音混じりですし。この状況を改善しようとデジタルラジオなどが企画されたのだと思いますが、実用化試験局の停波まで1年ちょっとなのに、次の展開(アナログテレビ停波で空くVHFローチャンネル帯の使用が検討されているようですが、Eスポによる中韓露、とくに局数激増中の中国アナログFM局との混信対策は大丈夫なのでしょうか…5月から8月にかけての昼間に87.5MHzより上を聴いてみると、状況がわかるかと)がまだ決まっていない状態です。
そこで当面の打開策として、ネット経由でのストリーミング配信に頼ろうとしているのでしょう。前述の某ソフトでの決まり文句「難聴取エリア再送信」そのものですね。
しかし、資本力や企画・ソフト力で圧倒的な優位に立つ在京・在阪局の番組がリアルタイムにネット配信されるのは、確かに地方局にとっては死活問題になりかねませんね。民放テレビがほぼ全国に3〜4局あり、時間差放送も含めると見られない番組がほとんどないのに対し、民放ラジオの地域格差は物凄いです。宮城や静岡、広島といった民放テレビ4局体制が比較的早くから整った地域でさえ、AMとFMが1局ずつなのですから。
そういう現状なので、例えばネット局の少ない月曜深夜の某カリスマな番組が流れている間とかは、前述の某ソフトがとんでもないことになります。同じ時間に全国放送されている裏番組の聴取率や各地でのCM営業に、多少なりとも影響を及ぼしているかもしれません。アイドルや声優の番組も関東や関西ローカルのものが少なくなく、局所的には人気があります。そうした番組をエリア外で聴くために、AM遠距離受信最強を誇るソニーICF-EX5(現在はマイナーチェンジしてICF-EX5MK2)を求める人が未だに地方を中心に絶えず、四半世紀もの超ロングセラーを続けていたりします(関東在住の非巨人ファンの野球好きが一番買っているという話もありますが)。
そんなソフト力の高い在京・在阪局のサイマル放送が雑音やフェーディングを気にせず、全国で高音質にて聴取可能な状態になれば、確かに地方局の番組は割を喰らいそうではあります。
ただ、全国ネット番組の多い夜間(特に深夜)と違って、朝から昼間にかけてはキー局・地方局を問わず、各局ともに地域に密着した番組を流しています。天気予報や交通情報はその土地の局のものが最も参考になりますし、ニュースにしてもしかり。関東のローカルニュースや天気予報や首都高とか環七・環八の渋滞情報、地方の人にとって最初のうちは物珍しいかもしれませんが、価値のない情報にはそのうち飽きてくることでしょう。ですから、地元の局が聴かれなくなることはないだろうと思います。
それに、地方局にも面白い番組はいろいろありますし、特にAM局では電波がFMやテレビよりも遠くまで届く特性もあって、越境で聴かれている地方局の番組も少なくないようです。つまり、番組自体にはソフト力のあるものが少なくないということです。かつてラジオ沖縄がCS(スカパーのラジオチャンネル)を使っての全国向け放送にチャレンジしたことがありましたが、ストリーミングなら同じことが圧倒的な低コストで実現でき、しかもより多くの聴取者にアプローチできることでしょう。地方局もどんどん全国に向けて発信すればよいのに、というか発信できるようになればよいのに、と思います。CMだって全国の広告主相手に営業することは絶対に不可能、というわけではないですよね。門外漢には理解しがたい、いろいろな壁が聳えてはいそうですが。
と、いうわけで、資本力のある大都市局主導による地域縛り付きのサイマル放送でなく、既存の全ラジオ局(コミュニティ局も)がストリーミングでサイマル放送できるような環境を整えて、地域縛りを完全に取り払うほうが面白くなるかと思います。
台湾の例が参考になるかもしれません。日本の(市内・長距離・移動体に分割される前の段階の)NTTに相当する「中華電信(CHT)」は地域や公・民営を問わず、台湾のほぼ全部のAM/FMラジオ局の番組を無料でストリーミング配信するポータルを運営しています(今、久々に聴いてみたらWMPコンポーネントのアップグレードを要求されましたが、とりあえず今も完全無料で、地域縛り等もないようです)。日本だと事業主体はどこがいいのでしょうね。以前から民放FMラジオとの連携に力を入れてきたau by KDDIさんと、たぶん携帯電話の歴史上最初で最後のAMラジオ内蔵機種になりそうなmova端末「RADIDEN」を世に送り出したNTT docomoさんという、ラジオに理解のありそうな携帯電話キャリア2社*1の共同でいかがでしょうか?
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以上、J-WAVEクリス・ペプラーの「TOKIO HOT 100」(この番組は地域縛りがなくなれば全国的に聴く人が増えそうですね)を聴きながらのエントリでした。

*1:ちなみにソフトバンクは前身のボーダフォンKKが提供していたJFN系列のカウントダウン番組のスポンサーからボーダ買収完了後即座に撤退したことにみられるように、ラジオ軽視の傾向があるように思います。まだ初代W-ZERO3リリースからしばらくJ-WAVEなどでCMやキャンペーンをやっていたウィルコムのほうが、ラジオには積極的でしたね。