正確に言っておきたいので。

日テレ系水曜日夜10時のドラマ「曲げられない女」が面白くて、毎週楽しみに見ています。いよいよ来週でおしまいですが、視聴率は尻上がりに上昇中で、最終回は高視聴率ドラマの証「15分延長」だそうです。で、その中で菅野美穂扮する主人公「荻原早紀(おぎわらさき)」が自分の苗字を間違って呼ばれたり(毎週1回は必ず「ハギワラさん」と)、誤った言葉の使い方(昨日は「三行半」。妻が夫に三行半、というのは本来は謝った用法だそうで)を耳にしたりする度に言うお約束の台詞が「すみません、正確に言っておきたいので」
まあ、この場で慣用句や成語の誤用についてネタにするつもりはないです。自分は可能な限り辞書に忠実な用語遣いを心がけてはいるものの、書いたものをあとで読み返してみると誤用が少なくないことに自分でも気付いたりしますので。「三行半」とか「役不足」とか「他力本願」とかは誤用があまりにも一般的になりすぎてもはや社会的コンセンサスが形成されつつあるようで、そのうち辞書の方が書き変わってしまうのかもしれませんね。
こうした慣用句・成語の類はともかく、いわゆる新語、中でもIT用語は毎日のように新しい用語(局地的に使われるものも含めて)が生まれていてフォローしていくだけでも相当な数なのに、言葉に概念が後から追いついてくるようなケースも少なくないですから、掘り下げていく難しさもあります。たとえば「クラウドコンピューティング」。意味や概念が日に日に拡がっていっているような気がします。正確に言うのも大変です。
このcloud(雲)、ネットワーク構成を雲のようなイラストを使って表現することが多いのが起源だそうですが、響きが日本語人的には最初なかなかピンときませんでした。webが蜘蛛の巣だというのはまだ理解できるのですが、雲がネットワーク的に繋がっているイメージはないですし、今まで自分がITの世界で主に取り組んできたのが、クライアント側というかスタンドアロンの仕事ばかりだったせいもあるのでしょうが。しかし、いったん覚えてしまうと非常に便利な用語だと思います。Webメールにはじまり、地図、ドキュメント管理に至るまで、プログラムやデータがサーバー側にあってインターネット上で動かせるものは何でも「クラウド」の一言で片付けられますから。まあ、クラウドの旧称のひとつ「ASP」は同字異義語が多くて(かつては「ATM」とかが凄かったですね)、個人的には略語から普通の単語に置き換わってくれてありがたいと思っています。「SaaS」というのも、かつて中華圏で猛威を振るった病気を思い出させて、あまりイメージが良くないと思いますし。
次に「エコシステム」。開発や製造から流通までの一連の体系に、収益を含めたフィードバックを絡め、本来の意味の「生態系」になぞらえた用語として、ITに限らずビジネス用語として近年よく使われます。アプリのエコシステム、とかiPhoneのエコシステム、みたいな感じで。しかし、日本では「エコ」という言葉が別の意味で浸透しているので、その業界内や事情通以外の人たちに対して使うと誤解を招きかねませんし、しかも「クラウド」同様に曖昧さを秘めているので、正確に言うのもなかなかつらいです。実際、環境事業や省エネ関連の会社名としてもいくつか使用例が見つかりますし。いずれ、もう少しこの言葉が世間に浸透すれば、誤解をあえて逆手に取り、駄洒落的にCMとかで使われそうな気がします。
クラウド、エコシステムと並んで最近気になるIT新語といえば「テザリング」でしょうか。Wikipedia英語版を調べてみると Tethering という項目が新設されたのは2005年11月16日で、最初は内容も非常にシンプルなものでした。この用語が一般化し、Wikipediaの記述も充実して行ったのはiPhone OS 3.0の登場以降でしょうか。標準UIの設定メニューに初めてこの用語を載せたのもiPhoneだと思いますし、やはりネット社会におけるiPhoneの影響力は凄いのですね。もっとも、「携帯電話回線で携帯電話以外の機器からネットワークに接続する」というテザリングの概念自体はさらに大昔から存在したわけですし、かつては「モデム化」とか、「DUN(ダイアルアップネットワーク)」や「PAN(パーソナルエリアネットワーク)」のような方式や手段を具体的に示す用語とかもよく使われたものですが、すべてがいつの間にか「テザリング」という新語に集約されてしまったように思います。個人的には「モデム化」のほうが日本語としてはわかりやすいと思うのですが、検索してみると今や昔のブログしか引っかからないですね。
最後に、Googleからここに辿り着いてきたユーザーの検索キーワードで1年間にわたって上位を占め続け、Googleで検索してもここがトップに来るという(自分にとっての)マジックワード「バリュー化」は、決して自分が作った言葉ではないことを、正確に言っておきます。